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イマイのコラム
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HOYAの相続
2021/4/26
朝日新聞2021年4月19日の朝刊に次のような記事が掲載されました。
「HOYA元社長遺族、遺産90億円申告漏れ 国税が指摘」
記事によると、ガラス製品やメガネレンズのHOYAの元社長が2015年に死去し、その遺産相続に関して相続税の申告をしたが、その税額計算が「著しく不当」ということで追徴がされたようです。

新聞記事によると、元社長は亡くなる直前に保有するHOYAの株式百数十億円分を資産管理会社に現物出資し、HOYAの株式でなく資産管理会社の株式を持つようになりました。資産管理会社はHOYAの株式をさらに子会社に寄付することで、資産管理会社もHOYAの株式を手放しています。

そうすると、元社長は資産管理会社の株式のみ保有することになりますので、その資産管理会社の株式の評価が問題になってきます。新聞によると「遺族側の算定は国税庁の通達にのっとったもの」であるとのことでしたが、ではなぜ追徴になるのでしょうか?「国税局はHOYA株を事実上相続しながらそれを十分に遺産に含めないのは『著しく不適当』と判断」したからということでした。

法律および通達に則って計算した税額が「著しく不適当」であるということはどういうことでしょう?そもそも相続税を計算するためには、亡くなった人の亡くなった時点の財産を時価によって評価しなければなりません。絵画などの美術品が顕著な例ではありますが、欲しい人にとっては高く、不要な人には安くなってしまうのが時価の考え方です。

計算する人によって財産の価値が変わってしまうと納税に不公平が生じるので、評価の基準が必要となります。それが「財産評価基本通達」です。通達とは、本来は税務署の中で上位者が決めて下位者が従う「内部通達」であり、納税者が従わなければならない法律ではありませんが、これに従うことにより「正しい納税」ができるため結局は従わなければならないものとなっています。

上場株式や土地・建物に関して、評価通達に従って計算することにより納税者は同じ土俵に乗ることができます。税務署も個別に評価することなく同じ基準で計算できるため、公平性が保てます。ただし、バブル崩壊時など土地の価格が暴落しているにもかかわらず年に1回の評価替えである路線価によって計算することが不合理であるとか、実勢価格と路線価がかけ離れている場合などは個別に計算することも可能です。

これが評価通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という項目ですが、評価通達によることなく不動産鑑定士などの評価によって土地の評価を下げることが可能となっています。

今回のHOYAの元社長の相続に関しては、同族会社である資産管理会社の株式しか保有していないので、その資産管理会社の株式を評価すると低い価格となり、元社長がHOYAの株式を持っていたときに比べると相続税が格段に安くなってしまったのです。資産管理会社の株式の評価方法や計算方式が間違っているわけではありませんでした。

税務署としては、HOYAの株式を手放し、資産管理会社を設立し、資産管理会社がHOYAの株式を手放したのは、相続税を少なくする目的で行った「租税回避行為」であると認定したと思われます。

租税回避行為と脱税とは違います。脱税は違法行為ですが、租税回避行為は違法ではありません。合法的でありますが、租税を免れるためだけに通常では取られない方法を用いて税を軽減することを言います。裁判所では「経済的合理性が欠如した行為を介在させて、意図的に租税負担を軽減させていること」と言います。

最近では海外子会社を通じて租税回避行為を行うことが多いのですが、子会社へ事業を移転することが「本当に税を回避するため」だけに行ったのか、あるいは「経済合理性の下であるべき姿だった」のかということは、判断をした経営者にしかわかりません。結果、税を逃れたかも知れませんが、経営判断として最適解を求めて行った行為かもしれないのです。

こうなると「何をすると租税回避行為として追徴されるのか」「何は租税回避行為にならないのか」といった指針が必要になってきます。言い換えると「予測可能性」が必要となります。後出しじゃんけんで税務署が租税回避行為を認定するのは、納税者として困ることになってしまいます。

後出しじゃんけんであるから「不服審査請求」や「裁判」が行われることになりますが、裁判の判例などを研究することによって以前の争いごとの事例を知ることができます。また、現在行っている取引、または行おうとする取引に税務上の問題がないかどうかを税務署と相談することができる「個別照会」の制度もでき、汎用的な個別照会については「文書回答事例」として開示されていますので、これらを参考にすることで「予測可能性」が高まっていくことになります。